物干しに出て、月をみる。
雲が厚くて、ぼんやりと透明な光がむこうに隠れている。
月のかたちはみえない。
もともとこの季節、さまざまな異変があった。
東洋医学でいうと、この時期は婦人科系に負荷がかかるのだそうだ。
中秋の名月とか、池上本門寺のお会式とか、そのころ入院していたこともある。
当時、仲の良かったひとが、もうちがうのだが・・、クニエこの時期いつも調子わるいね、と言うので、初めて気がついた。
しかし昨年暮れ、
犬が死んで、
近所の親しくしていたひとが亡くなって、
年末年始、宿敵ともいうべき夫の姪が三歳児を連れて上京し、
わたしのところへ来る気はさらさらなかったのだが、予定していた宿に病人が出て、ほかに頼るところも金もないので仕方なく、うちに転がり込んだ。
ほんとうに断って欲しかったが、夫は受け入れた。
あたまが狂いそうなほどに、疲れがピーク、
ちっとも休めないまま正月あけから連続して仕事が入っていた。
腰の調子が悪く、たびたび身体がまっすぐにならない事態に、暖かくなってやっと調子が取り戻せそうだったのが、また夏にきて悪くなった。
なぜか、年末からフライドチキンなど食べ始めた。
ムーミンのお皿がもらえるサービスに乗ったのがはじまりで、
こんなもの食べるのは数年ぶりだったのに、いったん食べたら美味しい。
こんな脂っこいものを食べて、調子が悪くならないのだからきっと丈夫になったのね、などと勝手な解釈、
ジャンク・フードはジャンクだからこそ、食べる者をジャンキーにするのだ。
ついでに中華料理店へ行くのが好きになった。
ここの中華はいやな後味がない、などとたびたび行ってジャンボ餃子や麺類など注文した。餃子だけ買いに行って、おかずにしたこともある。
かんがえられないことなのだが。
食欲はずっと低迷気味で、味がはっきりしたものしか美味しくなくなった。
昼の麺類に豚肉を大量に入れたものを食べ、夜はすき焼きなどというメニューも、いま思うとかんがえられない。
春に行った断食センターの所長に、
《あなたは体重をこれ以上下げないほうがよい》と言われたせいもある。
ダイエットもしていないのに、食欲がなく体重が落ちるのはなんとも不安である。
夏、腰が完全に悲鳴をあげ、野口整体に行くと、あっさり「たべすぎ」と言われる。
え?
この太り方はたべすぎ、と言われる。
でも体重は増えていませんよ、などと言い訳をするが、体重も1キロくらい増えている。
でも、1キロ。
いや1.5キロか。
整体の帰りに、遅くなったし、なにか買っていこう、とデパ地下へ寄るとよいにおい。
鳥の唐揚げの期間限定コーナー。
鳥の唐揚げって揚げ物なのに、大量に買い込んでしまう。
車は急に止まれない。
ブレーキが効いて来るまで、腰をもう一回ぎくっとしなくはならなかった。
不思議。
たいてい食べ物で失敗する。
食べ物で失敗する原因はストレスなのだが。
ストレスがあると、脂ぎった、味の濃い、ふわふわしたものがどうしても食べたくなる。
肉をやめ、中華をやめ、油脂の使ったせんべいをやめ。
そういうものをいかに食べていたか、思い知る。
このところ食事の見直しが功を奏して、いつも調子のよくないこの季節、意外と良い気分で過ごしている。
しばらく物干しにいると、くっきりと青い月が濃い雲のなかから現れて、思わず手を合わせる。
雲がいきもののように息づいて、目にぐるりと海のように広がる建物の向こうに、赤い光のつぶがけたたましく点滅している。