川崎と立川を結ぶ通勤時の南武線は、始まりから終点までほぼびっしり混んでいる。
スタジアムジャンパーを着て、よれた花柄のリュックを背負い、ドタドタ乗り込んできた女性。
年格好は、私と同じくらいか。
両手に荷物の入ったレジ袋を持っている。
はあはあと荒い息をして、ばたばたと乱暴に乗り込んでくると、どこも席が空いてないのを見回して、倒れるようにごほんごほん咳をする。
リュックは床に置き、その上にレジ袋を置いて、なおもきょろきよろしながらつり革につかまっている。
私からは後ろ姿しか見えないのだが、目が離せない。
平然と前に座る五十代くらいのサラリーマン男性は、すずしい顔でスマートフォンに指を這わせ、その脇に座る、私と、そしてスタイジアムジャンパーの女性と同じくらいの年齢の女性は、なにも感じていないようである。
女性が露骨に座りたいアピールをしても、だれも助けてあげない。
私だって困る。
終点まで行くために、遠回りして始発に乗り込んでいるのだ。
すずしい顔の男性は、静かにスマートフォンに熱中し、隣の女性は、こんな騒がしい空気にそよとも動じず、爆睡して頭をぐらぐらさせている。
スタジアムジャンパーは、ついにしゃがんでしまった!
髪の毛が前のひとのひざにつきそうである。
私の隣の席が空いたとき、知らせてあげようか、と思ったが前に立つ男性がさっと着席してしまった。
リュックとレジ袋を持って、ついに座席を確保できないまま、スタジアムジャンパーは終点近くの駅で再びばたばたと降りていった。
いっぽう、6分遅れの東横線。
ものすごい混みようである。
つり革につかまる私の横におデブの女子高生。
彼女が肩にかけた固くて四角いカバンの端が私にぐいぐいぶつかってくる。
ちょっと、と真っ黒い剛毛の頭をごつんとやりたい。
こちらがもぞもぞしても、ちらとも動こうとしない。
でーんと構えている。
みっしり肥ったゆびを、スマートフォンから一瞬たりとも離そうとしない。
デイズニーのばかげたキャラクターのカバーがこちらに向いている。
女子の前の座席が、運良くひとつ空き、女子はここでも体制を変えないので、私はすみませーん、と割り込んで座る。
その後、わずかに車両が振動したところで、女子は、だだーっと横に倒れそうになり、にぶく騒然とする。
腰が硬いのだ。
だから身動きがとれない。
私の腰が一番ひどかったころ、新宿三丁目から新宿へ向かう混雑のなかで、よくひとにぶつかった。
「ちぇ!」とぶつかってきたひとをののしったが、実は、自分の腰がよくなくて、些細な衝撃を避けられないのだ。
だから、すいっと避けてなんとか通過できると、よくなっている、と思うし、どこからぶつかると、まだもうすこし、と思う。