5月の連休も、夫が現役会社員だったころのようなほっと休めるまとまった休日というような位置付けではなくなったが、今年は元号が変わるという特別な十連休である。
ぎっくり腰が信じられないほど長引いて、水曜日の仕事に年度変わってそうそうに穴をあける事態、金曜日の茅ヶ崎の現場は今年度初の仕事日である。
前日の木曜日に二回ばかり外を歩いてみたが、ちょっと歩くと股関節にしびれがくる。
こんなことで茅ヶ崎まで行き、保育園で子ども相手に仕事ができるのか?
しかも雨、しかも寒い。
夫が車で送って行ってくれると言う。
夫はその日午後1時から仕事が入っていたが、一時間遅らせて2時にすれば、11時に茅ヶ崎を終え、自宅に戻ってから充分仕事に行ける、と言う。
決して遅れてはならない場合に車は使うな、と言うのは、病身の妻を抱えて子どもふたりを育てたひとの弁であり、私もそのとおりだと思ってはいたが、腰が不安、股関節が不安である。
電車で行って帰れなくなったらタクシーで帰ればいいか、茅ヶ崎からうちまでっていくらかかる?
と夫に言うと、それはムリだ、となぜかいきり立って、それなら車で行こうよ、とパソコンで調べると一時間で着くことになっている。
帰りはもっと早いはずだという情報が出てうのみにする。
あぶないな、と思いながらそうしてもらうことにした。
私はたいていの場合悲観的にものごとを考え、リスクを膨らませ、結果として決断ができない。
夫はほぼ楽観的である。
決断も早い。
自宅に帰れない場合を想定して、そのまま仕事に行けるようにスーツで行けば、と私は思ったが、いいよ大丈夫、と自信たっぷり。
スーツで運転するのも大変だろう、私ではなく夫が運転するのだから。
雨の中を1時間の道を大事をみて2時間前に出る。
環八が込んでくる。
あ、十連休前日だ!
と気づく、細かい雨の煙る道路は産業車がぎっしりで動かない。
どうしよう、戻ろうか、と思うが今から電車で行くと少し遅れる。
焦って電車を乗り換えて行くのも、どうだろう?
いいよ、このまま行こう、万一の場合は園長先生に電話する、ということに。
しかし、東名高速の登り車線が通行止め。
あとから高速道路で人が亡くなって発見された、と知る。
下り車線も渋滞している、ぎりぎりのところで走り出して、ほんとうにぴったりに保育園に到着した。
仕事が終わるまで夫は近くのカフェで仕事をして待っていてくれる。
待ち時間中に、帰りの道路状況を調べておいてね、と二回言ったが、どうやら入っていない。
案の定、帰り道一般道から動かない。
調べたの、と聞くといや、と言う。
だってどうやって調べれるかわかんない、とフシギなことを言う。
1時間たっても、まったく動かない、まだ茅ヶ崎である。
これはムリだよ、仕事に間に合わない、と私の仕事を優先させたため、彼の仕事に遅れては申し訳ない。
ただでさえ1時間遅らせてもらっているのだ。
一番近いJRの駅が藤沢駅。
藤沢駅の駐車場に車を置いて、電車に乗ろう、と提案する。
行き先を藤沢駅に変更してナビに入れるが、藤沢に着く見通しも立たない。
東海道線12時22分発に乗れればぎりぎり間に合う、と夫。
それなら家に戻りスーツに着替えて、ぎりぎりセーフ、と。
駅前かどうかわからないが、遠くに歩道橋からビルに通じる階段が見えるので、あそこが駅に違いない、と見当をつけ、とにかくそこにあったコイン・パーキングに車を止めた。
茅ヶ崎といっても藤沢寄りの地点から1時間20分かかっている。
私は急げないから、先に行って、と言うと夫は、だいじょうぶ?と気づかいながらも走り出した。
私は車が一晩置きっぱなしになることを想定して必要なものだけをポケットに入れて手ぶらで駐車場を後にした。
そこからどういけば藤沢駅なのか、どこにもなんの案内もない。
とりあえずJRっぽい歩道橋と階段目指してゆっくりゆっくり歩くと雨のなかけっこう寒い。
外を歩くことを想定していなかったので、薄着である。
ただ勘のみを頼ってビルの中から駅へ通り抜け、万一のときのことを考えて持っているスイカで改札に入る。
これじゃあ夫は22分には乗れなかっただろう、といやいや困ったことになった、と始めて間もない月に二回の仕事に影響が出たら、と思うと気の毒である。
ところが22分発に間に合ったから多分へいき、とライン。
すげぇ、とひとりで目をまるくする。
私は夫より一本後の電車に乗り、座ったり立ったりがおそるおそるで傘を杖にしているのを隣りのおばさんがじっと見るのがいやである。
おばさんは些細なひとの不幸に敏感だ。
後で話しを聞くと、会社に着いたのが1分前だった、とまったく問題がなかった、とのこと。結果的には私の茅ヶ崎もぴったりだったし、なによりも私の腰も問題がなかった。
夫は翌朝藤沢まで車を取りに行き、10連休の初日の道路状況を調べるとけっこう渋滞情報があったが、予想外に空いていて午前中に帰ってきた。
コインパーキングに支払ったのは18900円。
21時間の価格である。
上限いくら、というパーキングも途中見えたのだが、土地勘もなく、駅の在りかも知らないわれわれ
乗り捨てたのが前日の12時15分、引き取ったのが翌朝9時、五百円玉に両替をしているうちにさらに跳ね上がった。