その歳になってみないとわからないこと

仕事中に祖母から電話がかかってきて、具合がわるいから来てくれないか、と言われる。 当時、地域図書館に勤めていた私は、館長に時間休を申請し、私鉄を三駅ほど乗って祖母の住むマンションに行ってみると、祖母はどこかが特別にわるいようでもない。 だい…

運動会

運動会は苦手だ。 なぜ苦手なのか、自分でもよくわからない。 幼稚園の運動会で、母がフォークダンスを踊っているピンボケの写真がある。 ぼんやりした白黒写真だが、ロープにくくりつけたたくさんの旗が頭の上でひらひら舞っている。 私はひとより小さく、…

ナカモトさん

勤めている保育園に二年ばかり通ってきていたおばあさんは、ナカモトさんといった。 早く駅について園に向う私は、遠くから杖をついてゆっくり歩いてくるのナカモトさんが見えると、しばらく待って一緒におしゃべりをしながら園に向かった。 ナカモトさんの…

来訪者

この家には、しばらく預かっていた娘(現在四十歳)がふたりいる。 ひとりは夫の妹の子であり、もうひとりは夫の友人の娘である。 ふたりとも、上京する時は突然で、家にもくるのも突然。 新国立美術館の帰りに、ミッドタウンでランチをしているとスマートフ…

世田谷美術館

・・まつじるしにアップしたと思っていた世田谷美術館の夏の一日。 コロナ自粛をひきずっていたが、美術館のサイトで興味を持って見ていたセタビの「作品のない展示室」に行くことにした8月2日のこと。 前日の8月1日は家族にとって記念日であったのだが…

MANGA都市TOKYO

セタビで気をよくしたわれわれは、国立新美術館へ行くことになりです。 チケットはウェブ予約が必要となっていて、館内スペースが確保されるならむしろありがたい。 お題は、《MANGA都市TOKYOニッポン マンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020.》である。 一体なに…

パリ・テキサス

朝のニュースで、カリフォルニア州デス・バリーで気温54'4度を記録した、と熱気ゆらめく砂地の上をひとびとが歩く映像が流れたら、急に「バリ・テキサス」を思い出した。 U- NEXTで配信しているので、さっそく観ることに。 当時ロード・ムービーなる言葉…

ジェフリー・バワ

書店で見つけた建築雑誌に、ふと吸い込まれてページをめくると、確かに見覚えのあるスリランカのホテルの写真である。 バワという建築家の特集であった。 めずらしく雑誌を買うことにした。 ジェフリー・バワがスリランカ人の建築家だということがわかる。 …

経堂813つづき

話しが、父と父のいとこであるとしこおばさんのひょっとしたらという話しのうちはまだよかった。 伯母の話は次から次へとなまなましさをさらに増していく。 としこおばさんの父親は楠本実隆という人で、ほかの女性をつくって妻子を置き去りにした。 貧乏氏族…

経堂813

伯母の話のなかに、「経堂813の家」で、とか「あれは経堂813の家だったかしら」 など、当然こちらが知っていると思い込んで「経堂813」が出てくる。 98歳になる伯母は、ホームに入居していてここ数年は電話で話すだけの仲である。 数年前に思い切…

トリガー

アリス・マンローの「林檎の樹の下で」の出だし、 「街の向こう側にミリアム・マカルピンという名の女が住んでいて、馬を飼っていた。 自分の馬ではない---預かって、繋駕競争をやっている馬主たちのために、調教していたのだ。」 を読むや、がーんと瞑想状…

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「沈没家族」

日本映画チャンネルで「沈没家族」が放映されている。 録画しようと思っていたが「沈没家族」という題からして、D Vや虐待などのおそろしい家族のリアルなドキュメントかもしれない、と迷っていた。 想田和弘監督のドキュメントにますます深くはまっていて、…

6月1日

緊急事態宣言が終了したら行かなくてはならない、と思っていたが、 恐怖で吐き気も起こる。 やめておくか、と家族に心配されながらも決めたことは変えたくない。 果たして、それがよかったのかわるかったのか?

たべものの恨み

女流の作家がすき。 アリス・マンロー、林芙美子、マリズ・コンデ、そして幸田文。 漫画家だったら断然岡崎京子と大島弓子。 女の描く女。 幸田文文学に登場するある種の女。 このひと前にも出てきたな、と思う形態。 ゆるく着物を着て、媚びてなびくひと。 …

幸田文の世界

咽喉が痛い、熱っぽい。 ?もしや、と熱を測ると36度以下の平熱が36度7分。 これからぐんぐん上がって、実はコロナだったりして? おそろしい。 明日も明後日も仕事はないのだから、コロナになったっていいじゃん、というわけにはいかない。 最愛の家族に…

住まなかった家  フラワー・ロード

禁足状態にやることといえば整理整頓しかない。 溜まりに溜まった写真、手紙、メールを整理して、子どもが生まれてからの簡易アルバム十何冊を一冊のアルバムにまとめた。 探していたスリランカのフラワー・ロードの家の庭に映る知り合いの息子とまだ5歳の…

暗転

「いっきに世の中がまっくらになる」は、私の人生にめずらしいことではない。 週に一度の生協の注文票を記入するときとか、週に二度のごみの日にゴミ箱の袋を変えるときなど、この次までになにごとも起こらないといいが・・とドラマの伏線のようなことを考え…

NANAちゃん

Nちゃんは、四歳のときに転園してきた。 転園してきた子どもは、たいへんな努力をしていることが多く、特にこれまで経験してきてない活動をするのだから、二歳から私の表現活動に参加してきた子どもたちのなかにポンと入って、一緒に動くことはたいへんだ。 …

2020年 4月7日水曜日

緊急事態宣言が出された。 朝からたて続けに今年度の仕事がキャンセルになる。 世界は、どうなっているか、犬二頭と外へ。 美しい新緑のなかのひとびと、正月とも盆とも異なる、むしろどことなく解放感があるのはなぜか。 ウィルス拡大懸念の最中であるが、…

トロッコ

芥川龍之介の作品を朗読CDで聴く。 たまたま図書館でみつけ、目も頭も疲れ気味だから聴覚を刺激してやれ、と棚にあった芥川の「河童」「藪の中」と宮沢賢治の「風の又三郎」「なめとこ山のくま」そしてポーの「黒猫」。 これまで手にしたものの読むのに苦労…

CURFEW  (カーフュウ外出禁止令)

外出禁止令が出ているパリやロンドンで、禁足となっている友人たちから、平和な世界であればめったに来ないメールが届く。 1988年、アルジェ市で暴動が起こったとき、生まれて初めてカーフュウなるものを経験した。 柵があるわけではないが、アルジェリアで…

音楽

四年間つきあったきた子どもたちと別れて、帰り道、スマートフォンで聴く音楽。 シャッフルにして聴きながら、なんともいえない疲労と、わずかばかりの達成感。 「これでいいのだ」あるいは「しかたない」という感情。 私は駅に向かって、思い込みも自己愛も…

無料体験レッスン

つめたい雨の降る日、元同僚たちとランチのあとカラオケに行くと、高音域の声が出なくなっている。 二人目の先生の声楽教室をやめ、二年以上たって、声はもういいかな〜と思っていたのだ。 これは、ひょっとすると私自身の問題かもしれない、とあるひとに相…

お菓子

長く東京に住んでいても、知らなかった「浮間」という地にある保育園に呼ばれて行ったのは、雪が降った日の翌日のことで、知らない駅に下りたって雪が残る道を地図を片手に歩いた。 大きな池のある公園が駅前に見える。 保育園の方向には浄水所があり、古紙…

全国休校の報

新型コロナウィルス の拡大予防として、学校を休校にすると発表される。 昭和二十八年生まれの自分にとって、生まれて初めてのこと。 夕方犬を連れて散歩に出た夫が、小学生に挨拶された、 「きょうからはるやすみです!」 と。 学校どこ? と聞くと、 「よう…

A Bad Day

朝のうちに雨は止んで、曇りのはずが、とうとう終日煙たい小雨降るうっとおしい一日で、家族が帰ってくるまでの時間がとてつもなく永く感じる。 こんなことでは、子もいずれ出て行くのだし、困ったものだ、と思いつつ。 正午きっちりに白米とさつま揚げ、ネ…

「もうひとつの異邦人  ムルソー再捜査」を読んで

初めてアルジェの海を見たとき、強烈な感情が湧き起こってきて、 海がまぶしくてアラブ人を撃ち殺してしまった、という「異邦人」のストーリーがいかに人種差別的な世界でのことなのか、と。 アルジェリア人とアルジェの街や海に行くと、外国人としてのバリ…

公園

犬を連れていく公園。 長期の改修工事のあと、砂場がおしゃれになり、滑り台とうんていとブランコがセットになった色とりどりの設備、ベンチとテーブルのセットは子どもを見ていられる位置に配置されて明るくなった。 以来、この公園に子どもの姿がないこと…

健康

大酒飲みで、栄養状態もよくない、衛生状態だって相当に問題アリ、こころも孤独という70に手が届く知り合い。 その彼が、原因不明の高熱で入院、薬が効かない、という心配な知らせが入った。 ついにかぁ、と案ずるが、数日後、熱の原因は毒虫のせいだ、と…