今年の初めに、フェイスブックで弥生美術館の展示の紹介が回ってきて、ぜひ行きたい、できれば着物で、と思っていた。
2月の初め一緒に行かない、とママ友を誘ったら、3月からだった。
また声をかけるね、と言ってそのまま気がついたらもう6月。
会期は6月までだ。
チラシやネットを見てもあまりぱっとした紹介がされてなくて、無理に行かなくてもいいかなぁ、と迷いはじめた。
まあいいか、と出足が鈍ってひきこもるパターン。
土曜日は腰が痛くて仕方なかった。
温めて昼寝をしたら持ち直して、表参道に出かけた。
お祝いに絵本を贈るのは、クレヨン・ハウスときめている。
同じ絵本にかわりないが、アマゾンで買うのとは違うのだ。
クレヨン・ハウスのラッピングにかわいいカードが付いている。
絵本を済ませたら、すっかり調子が良くなっている。
よし、このまま弥生美術館へ直行しよう、と思ったが、着く頃には閉館という時刻。
千代田線のホームであきらめた。
お出かけは、土日のどちらか、と決めてはいるのだが、翌日腰痛はすっかり治っている。
行ってしまえ、とあまり気乗りのしない夫と出かけた。
「谷崎文学の着物を見る」のキャッチコピーでは伝わって来ない内容に、出足が鈍るのだ。
東大前は、東京大学という日本一の大学の駅である。
夫は、かつて出入りしていたらしい。
別件で。
初めて行く場所の場合、夫のアイフォンまかせきりだが、アイフォンに没頭して彼が車にひかれないよう注意しなくてはならない。
弥生美術館は変わった建物である。
古いし、西洋式か和式かわからない。
入り口で写真を撮っているひとがいる。
日本人である。
そこまではまだ解らなかった。
中に入ってみないと内容はわからないものである。
谷崎の小説に登場した女性の着た着物を、アンティーク着物で再現しマネキンに着せている。
谷崎のテキスト、本に描かれた挿絵も着物とセットになっている。
美しい着物である。
花柄に花柄の帯、蝶の羽織。
いま、コレド室町の着物のイベントなどに行くと、着物の下はハイヒールというオシャレな女子がいるが、日本女性はとっくの昔に、着物とハイヒールの組み合わせをしていたのだ。
谷崎の最後の奥さんと姉妹たちの写真。
写真に基づいて再現された着物をマネキンが着ている。
谷崎の美の世界に圧倒された。
帰ってから、全集を持っていたはず、と本棚を探すと、なぜか13巻までしかない。
12巻に「蓼食う虫」があり、さっそく読み始めると、
ああ、黄八丈とか黒八丈とかよだれの出そうな着物描写。
微にいり細にいり、谷崎の描くすがたかたち、衣装への執着。
抜いた衣文からのぞく背中の皮膚。
メッシュの手袋と手袋から透ける爪。
三十代で読んだときには、理解できなかったエロい描写がしつこく迫ってくる。