2016夏

朝からすごい。

7時すぎからかんかん照り。

物干しに出て、洗濯物を干すのにサングラスをかける。

昔、色白が自慢の養母は、タオルを顔にぐるぐる巻きにして長袖を羽織り、屋根の上に設置された物干し台にずっしり重い洗濯物をぐいぐい持って、外階段を登り、洗濯物を干していたっけ。

 

一足早く6時に小型犬を散歩に連れて行った夫が、

今ならへいきだよ、まだ道路が暑くなってないから、と言うので、家を出る。

犬のケージを置いた玄関スペースにガンガン日が照りつけているので、この時点でクーラーを除湿に稼働して小型犬を中に入れる。

朝6時は、犬連れでいっぱいだったそうである。

7時すぎになると、そうでもない。

子どもたちがプールの用意をして登校するのに出会う。

気弱そうな男の子と、おしゃべりな女の子の組み合わせ。

あたし、できるよ、あたし、できるよ、と言っている。

通り過ぎるとき、ザックを見て、かわいい、と言う。

かわいい、と言って「ワンワン」と鳴き声をまねする、かわいくない。

 

土手へは行かないで、多摩川台公園へ行くことに。

公園入り口でこちらを見ていた男性が会釈する。

よく見ると、腕にトイプー。

トイプーはだっこされてるくせに、ザックを見てうううと怒る。

おこりんぼうだね、とザックに小声で言う。

 

熱中症対策として、時々立ち止まって水を飲む。

喉が乾いているわけではないが、飲む。

熱気と湿気でくらくら。

 

帰ってすぐに、郵便局へチャリを飛ばして、週末に用意しておいたCOUCOU の赤ん坊へのプレゼントを送る。

出産祝いなので、サル便ではなく、航空便である。

パリのCOUCOU は、昨年は二回日本にやってきた。

二回目はパートナーと一緒だった。

シャルル・エブドの事件のあったまさにその近所で、パートナーは、自宅に出入りするのに、身分証を見せなくてはならなかったと言っていた。

パートナーは地味な男性で、私たち家族と昼ご飯を食べるのも居心地がわるそうだった。

COUCOUが気に入ってるなら仕方ない。

先日ラインに腹ぼての写真が送られてくるまで妊娠を知らずにいた。

私にだまって妊娠とは、と書いたらはははは、と返信が来て、パリ祭が予定日とのことが、7月12日に生まれ、産まれたばかりの女の赤ん坊の写真を送ってきた。

COUCOUと血縁関係はないが、パリで居候生活をしていた夫は、赤ん坊のときから面倒を見てきたこの子を心底愛していて、私のほうにラインがくると嫉妬を感じるらしい。

私と初めて会ったのは、四、五歳くらいでよく喋った。

フランスで生まれてフランスで育っているので、見た目は百パーの日本人だが、中身は百パーフランス人で、しゃべることばはフランス語のみだった。

8歳でイスタンブールにしばらく預かった。

日本語を特訓した。

教材は「となりのトトロ

スリランカにやってきたときには、17歳になっていた。

チョコレートしか食べなかった小さな子は、思春期の苦悩を経て、深みのあるひとになっていた。

そして、20代になって一年近く、東京の我が家に同居していたのだ。

うちの娘にとっては「おねえちゃん」なのである。

そのCOUCOUに赤ちゃんが生まれて、写真が送られて来た時はジンとなった。

赤ん坊を抱く彼女はすっかり自信のついたひとになっている。

一冊の絵本、私が初めての絵本としてプレゼントするのはいつも「ちびゴリラのちびちび」

それに可愛いジンベイさん。

 

郵便局はこんなに暑いのに混み合っている。

暑くて息苦しい朝の郵便局が、なぜかなごやか。

私の前に、もう歩いてもよさそうな男の子を抱っこした暑そうな母親は、こちらを振り返って、すぐ終わります、と言ってくれる。

受付中のお婆さんが、ごめんなさいね、と母親に振り返るときれいにお化粧している。

たいへんねえ、暑いのに。

自分の番が終わると横のカウンターにずれ、隣にいるもうひとりのお婆さんと、お婆さんらしい話し方でおしゃべりしている。

幼稚園の同級生なの、と言って、周囲をびっくりさせる。

へえぇ、と郵便局のいつもはいやなひとが、いいですねぇ。

90なの、90、と、帰っていく。

杖はついているが、素敵な着物地? と思わずジロ見した黒地に鳥の絵が描かれた袖なしのワンピースを着て、バッグも靴も凝ってる。

 

ついでに寄った銀行のATM に先に着いて、機械と向かい合っている。

私の前にひとり、私と同じか少し上のおばさん。

お婆さんが終わったらしいので、

いいの、おわった?

と聞いて、機械に近づいていく。

ええ、どうぞ、どうぞ、終わったわ、

大丈夫、暑いから気をつけて、

ふらふらしちゃうわ、

多いから、桁を数えるのが大変なんでしょ。

そうそう、多くて大変、

などときわどい冗談を言い合っている。

二台ATMが設置された狭い空間。

 

暑いから、気をつけて

ありがとう、90

とまた言ってる。

へ?

と機械から振り向いて、お婆さんを眺めている。

ほんと、すごい、負けちゃう。

とおばさん。

お婆さん、本来なら近づくべきでない範囲に入って行って、ぽんぽんとおばさんの腕を叩き、マニュキアを塗った指をひらひら見せびらかしている。

えー、すごい、きれい、私も頑張らなくちゃ、置いてかれちゃう、

やっと満足して、杖をついたきれいなお婆さんが、帰っていく。

気をつけてよ、暑いから、

とお節介なことばが、お節介でなく響く。

ありがと、とお婆さんは振り返らずに、出て行った。

 

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