ある保育現場で、いつもいつも叱られる子がいて、保育士の声ばかり大きく、他児童はしゅんとして、リズムの活動もふくらまない。
運動会が終わった今頃にする、大きな布を使ったリズム遊びは、たいてい子どもたちの歓声でいっぱいになるのだが。
叱られる子は、発達に少し問題を抱えている。
そのために、サポート機関に通ったりもしているのだ。
嫌だ、と思いながら、怒鳴り声が聞こえて来ると、ヘラヘラしている自分。
大きな声で叱られる場、たまに手が出ているのを、融和させたいという反応でもあるし、どうしてよいかわからないのでついへらへらする、というマヌケな対応。
私はこの秋、一大決心をする。
一対一で、やめてください、と言うことにした。
一対一が基本だし、万一それで保育士との関係が悪くなっても、私の仕事がやりにくくなっても、オーケー!という気持ちになる。
大人の関係がわるくなることを恐れて、子ども、特に問題を抱えた子を差し出すわけにはいかない。
そこを抜いては成立しない仕事のはず。
で、私は保育士に現場が始まる直前に話したのだ。
保育士は、顔には出さず、わかりました、とひとこと。
私も考えてできるだけシンプルに、自分の建前だけを話したつもりである。
保育士がガーンとなっているのは分かった。
申し訳ない気持ちに萎えそうになる自分もわかった。
でも、筋は通さなくてはならない、と気持ちを強く持った。
大きな布は、夫が何枚も安売りの布地をミシンがけしてくれたもので、あまり頑丈ではない。
布を踏まないでください、布を踏まないでね、お願いします。
と、繰り返し言う。
活動を終わり、大きな布を折り畳んで、しまおうとする最後のところで、すっと足を出して布をぎゅうっと踏む男子がいた。
「踏まないでって言ってるでしょ」
ときっとなる。
きっとなるだけでもまずい。
その上、つい人差し指が出てしまった。
人指し指で、彼の細い肩を押したのだ。
その様子を、保育士も補助の先生もしっかりと見ている。
他人に見られていることが、かえって緊張感をなくしているのか、甘えになっているのか。
その保育士もそうだが、他人の目があり、活動の様子を録画していることも、たまには主任がスーパーバイズしにやってくることも十分承知しているのに、起こる。
人差し指が、うずく。
なんということをしてしまったのか・・。
監視カメラでもあり、第三者委員会に訴えられればクビになるようなことはないにしても、厳重注意というところだろう。
何より「子どもの笑顔と笑い声のため」などと宣伝している自分の欺瞞である。
まさにそういうことはしないでください、と言ったその直後に自分の陥ったふるまい。
これは、心理学ではどういうものだろう。
人差し指の嫌悪。