行きつけの風呂屋で汗をかいたあと、西荻窪マイロードで昼食を取ることにする。
青梅街道沿いにある風呂屋から、西荻窪駅までの通りにはしっかりした構えの、きちんと展開している小規模商店が並ぶ。
年末の買い物客でいつも以上に賑わっている。
餅菓子屋、肉屋、鶏肉専門店、八百屋、古着屋などなど。
夫がアイフォンで鰻屋をねらっていて、良さげなアジアンフードや定食屋を横目にマイロードを探す。
夫は、めずらしく駅前の駐在所に、すみません、と入って行き、マイロードに行きたいんですが、源内という鰻屋さんなんですけど、と商店名まで告げて尋ねるのである。
マイロードとは、高架になっているJRの線路下にずらっと左右に並ぶ店舗街である。
え?
空気のわるそうな通路の奥へ入ってく、目当ての鰻屋は禁煙じゃない。
ちょっと躊躇したが、中に客が何組がみえたし、思い切って入ってみた。
うな重の一番やすいのが税込で1900円。
あわてて持ち金のチェックする。
風呂屋の十回券を買ってしまい、残金がなくなっていた。
うな重が出来上がるまで、ずいぶん待たされた。
通されたのは、カウンター席で、マイロードを通る買い物客をながめている。
お年寄りがゴロゴロを押しながらひとりで歩いている。
お正月用の花を持っている。
ひとりで正月を迎える準備だろう。
杖を二本つかって、歩いているひともいる。
白髪のおかっぱ、白い底厚のスニーカーを履き、二本のストックをぽいぽい放り出しながら。
介助の女性は、家族なのか、プロなのか。
どんな正月を過ごすのだろう。
カウンターの頭上にはワイドショーの年末特番をやっていて、下位から上位まで、麻薬だったり不倫だったり。
結婚だったり。
ああだこうだ言っているテレビ用トーク。
いかにもな人相の、いかにものコメント。
うな重の蓋を開けると、鰻がやせてチビなのにちょっとがっくり。
1900円で一番安い鰻だから、ま・しょうがないか・・。
1900円だと肝吸いが付かない。
お吸い物どまりである。
でも、お吸い物は化学調味料ではない出汁。
漬物も、ごまかしのないぬか漬けである。
昼のお客は私たちでおわり、入ろうと戸を開けた客を、ちょっと時間かかりますので、と断っている。
時間かかりますがよろしいですか、ではなく、時間がかかるのでダメです、という意味なのである。
昔の私なら、時間かかるから、何なんですか?と突っ込むところ。
かつて、高校時代の友だちが難関を突破して入った女子大。
こけしやといえば、女子大御用達のケーキ屋さん。
彼女が女子大時代、一度くらい一緒に入ったことがあったかもしれない。
あるいは、大量にやりとりした手紙に、こけしやに新しいともだちと入ってコーヒーを飲んだ、という話しがあったかもしれない。
こけしやは混んでいたが、ケーキを買って帰ることに、ここでも現金がないことに気づいて、千円ほどのものをカードで購入することに。
上品そうな、おじいさんがゆっくり入ってきて、杖をつきながら列にならぶ。
二階のカフェから降りてくる家族づれも、どこか文化的。
なぜ、彼女がやっと入った大学を止めてしまい、セクトに入ってしまったのだろう。
なぜ、と西荻窪という場から考えてみる。
40年後のこけしやから考えてみる。
いま、この時代、大学かセクトかなどという選択をする学生がいるだろうか。
大学か、社会運動か、という問いを発して、大学の権威に反対し、自分自身のうちなる権威主義を粉砕するなどということを言うひとがいるだろうか。
もっと違うべつの動機があったはずだ。
彼女自身も気づかない、なにかが。
そんなことを考えながら、ちょっと物足りないうな重のお腹をケーキで満足させるべく電車に揺られて帰ってきた。