今月から、ツイン・ピークスの最新版をやるというので、WOWOWに加入した。
¥2500も払うのだから、と朝からWOWOWにチャンネルを合わせると、
いつかもテレビで観たことのある「若者のすべて」を放映中。
原題は「ロッコと兄弟たち」というらしい。
この映画はとにかくアラン・ドロン(ロッコ役)の絶世の美男ぶりを見せつける。
昔観たとき、出演者があまりに若くてきれいなのに驚いた。
この映画のなかで、ずいぶんひどい被害女性を演じるアニー・ジラルドは、高校生のとき友だちと見た、ジャン・ポール・ベルモンドとの共演で、不倫の果て夫と子どもを捨て、最後不倫相手にも捨てられてしまう中年女性の役をしていたが、この女優さんを少しもきれいと思わなかった。
女子高校生に、中年のフランス女優の魅力はむりだったかもしれない。
タダ券を持っていたので誘ってくれた友だちとわたしは、妻の元に逃げてしまうJ・Pと空港で待ちぼうけを食わされ、静か首をふってそっとわらうアニー・ジラルドのラストシーンに気分がわるくなり、なによあれ!とお茶ものまずに家に帰った。
友だちは「脂肪の塊」というモーパッサンの小説にも怒っていたが、そのときと同じ怒った顔であった。
この映画は、カソリックの大家族の団結が、故郷の村から大都市ミラノに出てきたことによって、亀裂が入り、機能不全となる有様が描かれている。
ざっくりいえば。
アラン・ドロン演じるロッコが、破滅型の次兄、ボクシングで一度はチャンピオンになったものの、その座からあっけなく引きずりおろされようとしている兄と、たまたま通りかかったジムでボクシングを戦い、弟が兄に勝ってしまう、というあってはならない結果から物語が始まる。
ロッコは、兄との確執を避け、自分はボクシングなどしない、と公言するのであるが、生活が立ち行かなくなり、借金が募る次兄の尻拭いのために、とうとうリング上にあがることになる。
ひとたび試合が始まると、あまりの強さに自分でも驚く。
ひとたびグローブをはめると、
「煮えたぎる憎悪でいっぱいになる」
と言う。
そこがおもしろい。
ロッコというひとの隠れた暴力である。
とうとう人殺しまでして逃げてきた次兄を老いた母も、兄弟たちも、匿おうとするのだが、4番兄が、警察に通報することにより、次兄は愛人を殺害したかどで逮捕される。
結果、4番兄はファミリーから追放されそうになるのだが。
映画の最後は、この4番目兄と少年である末っ子の対話で終わる。
大人になったら、故郷の村に帰りたい、と言う末っ子に、お前なら帰れるさ、と言う。
ロッコと一緒に帰る、と言うと、ロッコは無理だろうな、ロッコは弱いからな、と言う。
暴力と、暴力を隠しおおそうとする力、そして、表面に取り出して裁きを受けさせようとする力が、カソリックの母と五人の息子たちのなかで格闘するのである。
懐かしいミラノ。
1960年公開だから、それより前の時代設定で、まだ第二次世界大戦を引きずっているイタリア。
軍服を着たアラン・ドロンには、まだ老獪なシワはなく、あやしげなところもなく、近づけば切れそうなシャープな美貌である。