電気屋さん

大雪の降ったころから、ブレーカーが落ちる。

ブレーカーが落ちる時の、ばんという音と共にまっくらになる衝撃。

おかしいな、と夫に言っても、はじめのうちは気にとめない。

何回めかに文句っぽく、何度も言ってるじゃん、と強く言うと、やっと腰をあげてブレーカーのフタを開けてじーっと見つめている。

ブレーカーを見つめていても、問題の解決にならないだろうに。

日に二度も、ブレーカーが落ちた翌日、東京電力に電話してみるわ、とやっと言ってくれた。

土曜日とかに来てもらって、という言葉はどうやら聞いていなかったらしい。

出かけた先に、ラインが届き

東京電力きます。くる前に電話するって」

「は・土曜日って言ったじゃん」と返すとそこで途切れた。

なにも送ってこないから気を悪くしたか、と思ったが、そんな女ともだちみたいなことは、たいていない。

「3時半には帰ってます。」

とやや下手に出るが、返信なし。

 

家に帰ると、ポストに2時半に来ましたが、不在でしたので帰ります。

以下の電話番号に電話して在宅時間をおしらせください。

とメモ。

留守電のランプも点滅していて「二件の不在着信があります」と。

二件とも東京電力

トーデンである。

 

さっそくメモにある電話番号にかけると、いつものアレ。

ただいま電話が混み合っています。

おつなぎしますので、少々お待ちください。

「のちほどおかけなおしください」じゃないのは助かるが。

延々と機械音が繰り返されるがいっこうに繋がらない。

子機に切り替えて、子機をピアノの脇において、シューベルトをさらっている。

と、犬が鳴く。

「?」とピアノを中断するが、ピンポンの音はしない。

そうこうするうちにトーデンと電話がつながり、経過を話す。

理知的なしゃべり口の男性が、現場と連絡を取り合ってもう一度この電話にかけるので切って待っていてください。

夫からようやく3時半にくるって、とライン。

この時点で経過を説明するのは複雑だから、トーデンからの電話を待つ。

やっとトーデンから電話がかかってきて、これから来るという。

すぐにピンポンが鳴り、目のぎょろっとした髪の毛のはげていないひとが脚立と、コードと金属のカバンを持ってやってきた。

ブレーカーはどこですか?

どういう状況で落ちたんですか?

 

初めて聞く話だが、同じ電力でも、外気温が低いと、それだけ消費量が増えるのだそうだ。

ヘェ〜と聞いている。

朝、床暖と電気ポットでブレーカーが落ちる、そんなことはこれまでになかったのに。

二年前までは暖冬だったけど、最近は寒いからあちこちで電気のトラブルがあるのだそうだ。

 

「調査費がかかりますが、いいですか?」

「えええぇっ、聞いてない、いくらくらい?」と大きな声を出す。

「九千円です。」

「えええぇっ、九千円?!」とさらに大きな声。

夫に電話をするが、こういうとき電話がつながらないのがおやくそく。

でも、しょうがないかな、と思っているうちに、雑談に発展。

 

「寒いときに暖かい生活、暑いときに涼しい生活はお金がかかりますよ」

「そうですよねぇ」

「だから暖房費をなるべく消費しないための対策を考えたほうがいいですよ。この部屋をあたためるのはたいへんだ」

と、木造家屋の、デザインを重視したため、いろいろとっぱらってワンルームにしたわが家を見回す。

なんとなく、ブレーカーを見てくれて、ちょっと床暖切ってください、ちょっと入れてください、と、調べてくれる。

「床暖ですよ、床暖、床暖いれたら他の電気はむり」

使用電力を上げるより、自分の調整したほうがいいですよ、基本料金が上がって一年払い続けなきゃならない、とサジェスチョン。

 

で、結局九千円は請求しないまま、自前の脚立を忘れそうになった電気屋さん。

アレ忘れてますよ、と言うと。

「ああ」とゆっくり振り返って、ほんわかしていらっしゃる。

車どこにとめましたか、と言うと。

山本さんの空き地、と言う。

あら、山本さん知ってるんですか、

「いやご主人が、山本さんの空き地に車止められるって。ピンポンしたけど、ご不在のようで」

「いやいいのいいの、あそこはべつに山本さんの土地ってわけじゃないので」

と、どうでもいい情報には返事しない。

 

帰って来た夫に話すと、ずいぶんエコな電気屋じゃねえかよ、と喜んでいる。あんた山本さんのことまで喋ったんだ、と言うと

だって、車止められますか、って聞かれたからよ。

あそこは山本さんの土地じゃないって言っといた

情報が混乱するのはまずいんじゃね

 

天気がわるく、会う人会う人ご機嫌がよくない一日に、恩恵の電気屋さんだった。

どうもありがとうございました!

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もう二月なんですけど・