日の名残り

カズオ・イシグロノーベル賞を受賞してすぐに買った「忘れられた巨人」。

やっと読み始めたが、なかなか進めない。

「私を離さないで」に感動して二冊読んだが、「日の名残り」は読めずにいた。

ストーリーを知っているのは、映画を観たからだろうか。

きちんと観たわけではないが、顛末は知っている。

 

「私を離さないで」の結末同様、話の展開が結局は喪失で終わることを知っている。

あがいてもあがききれない人生、

時の流れか、運命というものか、

抗いきれないながれのなかで、どうしても最後にひとふんばりするが、やっぱりだめ。

むざむざと、同じながれのなかの運命に戻っていく、残酷なストーリー。

喪失と分離。

 

英国王立劇団・ロイヤル・ナショナル・シアターのワークショップで、即興演劇を作る授業のとき、

たとえば、シェイクスピア

運命的な対立があって、葛藤がある。

そこでいったりきたりするひとの矛盾を描くのが物語であり演劇である、と。

そのときの参加者が手を上げて、源平合戦の話だったと思うが、敵を追い詰めて、追い詰めて、ようやくたどり着いて相手を倒したとき、兜をむしり取ってみると、そこにはういういしい少年の姿があった。

刀を持つ手がゆるんだが、どちらにせよ自分でないだれかに殺されるだろう、と思った将軍は、少年をいっきに殺してしまう。

そんな話を聞いて、場内がしんとした。

 

苦しい結末にじりじりと近づく。

やや長口上の英国執事の一人称を耐えて、クライマックスにたどり着くのだ。

そこがこのひとの上手いところで、残酷な終わりを残酷に感じさせない、厚い着地のスポンジ、さらに深く降下させる地点が用意されてある。

 

よい小説である。

最後の海辺のシーン。

夕暮れの海辺。

見知らぬひとどうしが、一日のおわりに和むひととき。

たまたまベンチで隣り合わせた老人から、人生の本当のよさは、このときから、と聞く。

 

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