いろんな人がいるもんだなあ、と久しぶりに外へ出るとつくづく思う。
環七を通る通勤時間帯のバスの中で化粧をする女性。
ベージュと茶色でコーディネート。
髪も自然なブラウンとかに染めて。
素足にパンプスのオシャレ。
小さな鏡を覗きこんで、一所懸命眉、目元をいじっている。
パフで顔全体をはたている。
他人は関係ない、という横顔。
冷淡な。
もう十年以上も前のこと、
地下鉄のベンチで堂々と化粧をしている若い女性がいる、と興奮した声で文句を言っていたおばあさん。
彼女とは十年間一緒にヨガをした。
二世帯で同居する息子さんに、
「なんだろう、あれ、聞いてみたいもんだ」と言うと
「まちがってもそんなことするなよ、あんたやりかねないから」
と言われた、と息子の言葉を自分でおかしそうに笑っていた。
息子と自分の関係を自慢に思っている笑い。
そのころは別にいいじゃん、化粧くらい、と思っていた。
こちらもそのころのおばあさんとどっこいの年齢になってきた、ということと関係があるのか、ないのか。
バスのなかの女性が座っていたのが優先席だった、という非常識に憤懣しているのか、自分でもよくわからないが、不快にながめていた。
と、私の隣にどかっと座るガタイのよいひと。
私が座っているのは優先席である。
なにも乗り込んできてすぐに優先席に陣取ることはなかろうに、と体育会系のでかいカラダを邪魔に感じている。
降りるバス停を確かめるために運転席のほうの行き先板を見ると、男性だと思っていた隣のガタイは女性だった。
三年ほど前、同じ仕事場に行くのに、満員電車乗って、ぎゅうぎゅう詰めの状態で電車が止まってしまい、動かなくなった。
動いたかと思うと停車してしばらく動かない。
雨の日、人熱で窓がくもり、外がまったくみえなくなった。
きもちわるい、と思ったらパニックになって、密封された私鉄電車のなかで気が狂いそうになった。
思い切って次の駅でおりた。
でも、どうすればよいのかわからずにまた乗ってしまった。
またどきどきしてきて、おかしくなった。
がまんして目的地まで行ったが以来その経路を使えなくなった。
以来、行き方を変えてでかけるのだ。
今回三度の変更、最寄りの私鉄駅で降り、バスに乗り、世田谷線、京王線をのりついで行く方法である。
これもだめになったらもうこの仕事場はやめだな、と思っている。
世田谷線は、目の前で扉が閉まって、次がくるまでベンチに座って待つ。
反対のホームは三軒茶屋いきでけっこう混んでいる。
下高井戸いきは、乗り込むときに混んでいてもすぐに空くので座ることができる。
中学生か高校生のふたり連れが乗り込んできて、そのうちのひとりが横にすわる。
ケアが必要なひとのつける十字のワッペンをつけているこが座り、なにもつけてないこが前に立っている。
「さっき俺が出したサインなんで無視したんだ」
・・答えないと「答えろ、なんで俺のサイン無視したんだ」
「これ止まれっていう合図だよな、わかってんのか」
関係のない話題に持っていこうとする連れに、
「返事しろよ、俺のサイン見てただろ、見てたのになんで止まらなかった」
ぐちぐちいびっているのは、十字のワッペンで座っているほうだ。
ひやひやして、隣の車両に移った。
自分の子がこんな目にあっていいたら転校させるな、でもこんなこと親に言わないよな、と深入りする。
男子はキケンである。
重そうなバッグをふたつ持って、席を探している白髪の老女。
優先席にふんぞりかえって、例外なく片手でアイフォンを操作する若い人たち。
下高井戸では二本通過待ち、桜上水でも二本通過待ち、これがいやなんだよな。
時間はたっぷりあるのだが、突風が吹いて急行に置いていかれる気分がよくない。
帰りに渋谷に出て、たまったポイントを使って買い物をしよう、と勇気をだして渋谷に降りたった。
なんと東急東横店への行き方がわからない、黄色いゼッケンをつけたガードマンのおじさんに訊ねると、東横店はもうないよ、と言われる。
なんだか恥ずかしい。
本店へ行くしかない。
本店へいくバスありますよね、と以前本店のサービスのマイクロバスに乗ったことを思いだして聞くと、ここからは遠いですよ、と言われる。
そうかぁ、じゃ歩いていく、と聞かれてもないのにおじさんに言うが、おじさんはべつに興味なさそうだ。
金曜日の午後の渋谷。
ずいぶんひさしぶり、コロナになってから来てないから、もう一年以上か。
まあまあの人出だが、コロナ前よりは少ないのだろう。
本店ががら空きなのは、もう十年以上前からだから驚かない。
欲しいものをポイントでゲットして、帰りはマイクロバスを利用させてもらおう、と思うが、乗り場が変わったのかサービス内容が変更になったのか、乗り場があったところは銀行になっている。
仕方ないので歩いて駅まで戻り、私鉄に乗って帰った。
夫が出かける前に野菜炒めを作っておいてくれたので、ラーメンを3分茹でて野菜たっぷり入れて食べた。
おいしかった。
環七のバス停に置き忘れられたかばん。