細雪

細雪」をYouTubeで聴く、たいそうしめやかな男性の語りである。

谷崎は、一生すき続ける作家かもしれない、と全集を購入したが「細雪」が入っていないのは、「細雪」がすきじゃなかったからだろう。

しかし本棚を探すと古い新潮文庫があった。

F r.3620とあるからこれは、アルジェリアで暮らしていたころ活字中毒にあえぎ、オペラの紀伊国屋書店で定価の三倍もの金を払って上中下巻を買ったものだ。

 古い文庫は、紙が焼けて文字がかすみ、こんなものを読んだら老眼がいっきに進んでしまう。

 

朗読者は、この長編を最後まで読んでくれている。

ありがたいことだ。

耳で聞くと、なおのこと谷崎というひとの偏った嗜好がよくわかる。

裕福で美貌の四姉妹の物語。

とくべつなにが起こるわけでもない、ざっくりいえば三女雪子の見合いと四女妙子の波乱というふたつのテーマだ。

そこに関西文化圏の古い金持ちの家柄と人柄、婚姻で成立する人間模様が複雑であり幼稚でもありおもしろい。

こうしたいが、こうするとこう思われるだろう、とか、ついこう言ってしまったが、こんなことを言えばこういうふうにとられるにちがいない、とか、仕方なく顔に出したら、その表情を読んだらしくしんと黙ったとか、行ったり来たりがまことにめんどくさい。

 

作家の妙子に対ししての残酷な仕打ち、恋愛問題が新聞に取り上げられたり、水害に遭ったり、男性関係を盛りだくさんにしておいたあげくに、恋愛関係にあった男をへんな病気で悶絶の上殺したり、また水商売の男性とのあいだに子どもをみごもりはしたものの、死産させたり、作家は女性の奔放はきらったのか、四女の扱いは度が過ぎる。

心理の家族分析という観点からいえば、妙子はこの妙な家族のなかのスケープ・ゴッドで、問題はこのひとのところに集中し、ほかがまとまる損な役割をしている。まともに自分の意見を言わないのにしんねりと我を通す雪子はんのところは平気でスルーしていく。

「家族アルアル」だ。

f:id:mazu-jirushii:20210518163749j:image