本を整理する。
ISBMのあるものと、ないもの、
もう一度読みたいと思うもの、なにかの引用に使えそうなものと「この際思い切ってすてる!」に分ける。
いったん「この際すてる」に分類した「玉電松原物語」を段ボールから取り出して、もうしばらく「たまもの」の隣りに置こうと決めた。
神蔵美子さんの元夫だった坪内祐三さんの遺稿となったエッセイで、世田谷線に乗るたびに、坪内さんの家のあったあたりを探している。
「たまもの」という神蔵さんの写真集は、坪内さんと末井昭さんのあいだをゆれうごく神蔵さんのダイナミックな反復がよく描かれている。
私が神蔵さんの立場でも、末井さんをえらぶ。
このひとの声をYouTubeで聞いて、こんなに気取りのない、えらぶったところのないひとがいるもんだなぁ、とちょっと感動した。
インタビューなど、どっちの立場でもひとがらが透けて見えてしまうので、ご本人は意図しなくてもその人格はたいていバレバレである。
その昔(自分が高校時代)三島由紀夫が平凡パンチの取材に応じて長時間のインタビューに答えた記事を読んだことがあるが、
女性の水着は、ビキニとワンピースとどったがすきですか、などの質問もあって、断然ワンピースYWCAの紺色の水着が一番などと応えていた、
私は、その一文を読んでなんとしてもYWCAのプールに入りたくなり、お茶の水まで保護者と来いとか、書かなくてはならない書類など、片親の自分にはハードルが高かったが、高校生の自分がどんな手管を使ったのか、私はお茶の水のYWCAのプールに通ったものだ。
YWCAの水着は、輪になったハンガーにぶら下がっていて、自分のサイズを選んで着用するのだが、なかにはヨレヨレになったものも混ざっていて、紺色といってもへんに青いようなものもあったりした。三島はなにかの冗談で言ったのか、印象だけで答えたのか、三島のファンだった自分は真に受けて、友人を巻き込んでお茶の水へ通った。
三島のインタビュー記事は「東大全共闘vs三島由紀夫」の映像から伝わってくるように歯切れの良さとスピード感は、他の作家さんたちとの同じ内容でのインタビューがまどろこしくて読めない、という印象だった。
末井さんの語り口からやわらかさとやさしさ、その人柄がにじみでていた。
このようなひとに、すき、と言われたら惚れてしまうのもわかる。
前にもこのブログで書いたが、坪内祐三というひとを知ったのは、「たまもの」であり、「たまもの」は坪内さんが瀕死の怪我を負って入院したときの写真から始まっている。
時系列にはなっていない写真の数々から、神蔵さんとふたりの男性、そして最終的に喪主となった佐伯さんの新しい奥さんも登場する写真は、もっともっと奥深いものを見せてくれる。
神とか信仰、性愛、家族、
結婚で「親族」となったものどうしが「離婚」によってビミョーな関係になったりする空気感とか、婚姻関係を結ぶまでは宙ぶらりんの不倫関係とか。
別れ、喪失、
そして死となるとまた親族の問題となるとか。
神蔵さんが激しく揺れたおかげで、亀裂から純粋な性が、愛がこの浮世とからみあうどろどろがたちのぼってくる写真集なのだ。
少年といえども「男」を背負った坪内少年の「玉電松原物語」と
妻だった女性がほかの男性に走る空白をかかえた「たまゆら」の坪内祐三。
この二冊を、もう一年ならべて置こうと思う。