お隣の柿の木。
この木をときどき撫でる。
柿の木は、私が五歳前、家にあった柿の木とは違う立派な木だ。
私の家にあったのはひょろひょろした渋柿の木だった。
その木の下で、母が父に手伝われて自転車に乗る練習をしていた。
母は、とうとう自転車に乗ることはなかったが、乗れない自転車に乗ろうと練習をするおとなの姿をみっともない、と五歳前の私は思ったのだ。
この木は母の木だ、と思って私はざらざらした木肌を撫でるのだった。
登りたいというむらむらする気持ちを抑えたのは、隣りの庭に立った木だから、不法侵入にで通報されるぞ、と家族から反対されたからで、機会が来たら、と思っていた。
機会はむこうからやって来ないが、正月になり不在がちの隣人が在宅しているだろう、ピンポンしてお宅の柿の木に登らせてください、とお願いする。
快い返事をいただき、さっそく登った。
幹がカンカンして空洞のようで、体重をかけるのが怖い。
それでも、ありがたく消極的な高さまで登らせてもらった。