月曜日の午後、新国立美術館へ行く。
今年二度目の新国立。
この建物がすき。
カフェテリアで、午前中の勉強を終えた娘と落ち合い、サンドイッチを食べる。
なかなか美味しい。
美味しいサンドイッチはめずらしい。
五年以上も前、代々木に鞍馬サンドという絶品のサンドイッチ屋があり、わざわざ食べに誘って行った友人うしやまも、目を丸くして、いやいやこの手のものがこんな美味しいってないよね、と単独でも行って、ハズにお土産にテイクアウトした、と言っていた。
ある日突然閉店してしまった。
あんなに美味しいパンと具は採算が合わなかったにちがいない。
代々木には、皮のお店もあって、バッグや財布などの皮製品だけでなく、洒落た服も置いてあって、うしやまはブラウスだったか、コートだったかに心を奪われ、
「ねえ、どう思う?」
と本気の時の、ちょっと汗ばんだような深刻な顔で私に聞いた。
私もうしやまも過酷な幼児期を過ごしていて欲しい物を欲しいと言って与えられる環境になかったため、欲しい物を手に入れようとするとバリヤーがかかって顔色が悪くなるのだった。
そしてこういう時、うしやまに自分の感想を述べるのはとても難しかった。
いいじゃんいいじゃん、買っちゃえば、というのも、
そうねぇ、もうちょっと考えてからにしたら、
というのも安直で。
本気の感想を述べたって、あくまでも私だったら、ということだから、納得しない顔をされるのがオチなのだ。
うしやまは、いつものように心を奪われながらも諦めたのではなかったか・・。
うしやまは、基本的に他人を信用しないし、
たとえ本気で、似合わない、と言っても
「嫉妬?」
と言われたことがあるし、すごく良い、と言っても「買わせようとしてる?」
と言われたこともある。
私自身はこの店でヘビ皮の小さなショルダーバックを買った。
ニコイチの親しい女ともだちと物に惹きつけられ、罪悪感を感じながらもお金を落としていた頃が懐かしい。
うしやまとは数年前に絶交してしまったので、もう私の物欲に付き合ってくれる人はなく、そもそも着物以外の物にははさして心惹かれなくなった。
今付き合っていたとしても、彼女は着物に興味を示さないだろう。
ロレッタが、一年近くいた日本から、帰国する直前にもこの美術館に来て、「陰翳礼讃」というテーマの展覧会は、とても面白かった。
ユングのシャドウ理論に打ちのめされていた私は「陰翳礼讃」で様々な影と光の織成すアートにいつになくすっと入り込めた。
朝は陽ざしがなく、寒かったが昼から太陽が顔を見せ、美術館の木製の床と壁に、往き過ぎるひとたちの影を映し出している。
ゆっくり鑑賞する娘を待っていると寒くなってきた。
コートはロッカーに入れてある。
ロッカーのキイは娘が持っているのである。