30日のホームセンターは、此の期に及んで家のなにやかやの作業に必要ななにやかやを購入するため、
大きなカートを押して夫婦でごたごた長さや幅について話し合っているひとたちでいっぱいである。
私は、ホームセンターに入ると気分がわるくなる。
が、夫はホームセンターに入るやいなやハイになって目玉がきょろきよろし始める。
超速で棚と棚のあいだを歩き回り、品々におそろしく集中する。
小型犬を見せびらかしにカートに乗せているカップルもいる。
一度まねをしてチビを連れてやってみたが落ち着かないし、どうせ犬連れは見せびらかすのが目的なのでへんな競争意識で犬をチラ見するのである。
われわれが購入したのは、木材と蝶番。
いつものことだが、車まで運んでから、車で運べるかどうか算段がはじまる。
一度イケアでめいっぱい買い込み、車のとびらが半開き状態で高速を走って帰ってきたことがある。
木材をななめに車に入れると、端がハンドブレーキを覆い危険である。
娘が後部座席で支え、私が角材五本をハンドブレーキから浮かせておかなくてはならない。
どうせここまで来たんだから、一度偵察に行ってみよう、とふらふらと懸案の住所にナビで行ってみる。
住所が判明してから、一ヶ月半、まだ確かめる勇気が持てずにいる。
このへんこのへん、とうろうろと路地に入り込み、目当ての住所には目当ての表札がある。
私だけ車から降りて、その家にほんとうにひとが住んでいるのか。
手入れのされてない庭には、緑がうっそうとしているが、門がまえに正月用のしめ縄がぶらさがっている。
二階建のふるい建物の二階の窓のカーテンがヨレている。
まるでひとが住んでいないようなのだ。
家の前を行ったり来たりするが、とてもピンポンする勇気は持てない。
玄関の扉の屋根と、家屋のひさしに猫がいる。
この家は、一体どうなっているのだろう、奥のほうを見ると、むこうからおんなのひとがこっちを見ている。
すみません、と思わず言う。
〇〇さんですか?
はい、と門まで出て来たそのひとは、素敵な色使いの首巻きとオレンジ色やブルーの重ね着に白いスウェットパンツを履いている。
私がイメージしていた六十九歳のひととは違う。
母が何十年も昔、前の婚家に残して来た娘のイメージとは違う。
母は激しい気性で、穏やかなその方と結びつかない。
でも、そのひとだった。
同じ母から生まれ、母から置き去りにされた三姉妹のうちのふたりなのだ。
こんな近くに、何十年も知らないまま暮らしていた。