意外に、空いている。
晴れ着姿の子は、駅に向かう途中ひと組みかけただけ。
ひと駅立ったが、前のひとが降車して座れた。
となりに座る若い女の子ふたり組。
大きな声でしゃべっている。
なかなか乱暴である。
なんだよあれ、Bパックってぜったいやらね。
Cは?
Cはたまにやるかな。
(ふがふが笑う声)
研修ってさ、なんだよあれ〜いみなくね、チョーむかつくしよ。
あいつ、なんかかんかいうし。
な、マジキレそう。
どうやら美容師のたまごが見習いか。
代官山で降りるか、渋谷まで行くか。
代官山のムードではないかも。
代官山で降りるひとたちのファッションは、黒ないし紺で、靴もおしゃれで、髪型もキマっている。
隣りだから、じろっと見るわけにはいかないが、ミニスカートに、肌の透け感がハンパなデニールの黒ストッキング。
あーあー、成人式っていいよな〜成人式にもどりてえ。
(ふがふが笑い)
このまま電車乗っていてえ、終点どこ?
和光。
和光ってなにあんの。
居酒屋。
へっ居酒屋?ばかじゃねえの、ひるまっから飲んだってしかたないっしょ。
いいじゃん、ひるまっから酒のむのきもちいい。
ばかじゃねえのお前、あたまおかしいし。
(ふがふが笑い)
娘が、友だちと会って帰ってきて、口調ががらっと変わっていることがある。
乱暴な、捨てばちな喋り方になっているので、いやだなぁ、と思う。
そういう口調が、という以上にすぐに感染してしまうことが。
その日、帰ってから電車で一緒になった女の子たちの喋り方をマネしてみる。
ナニちゃんのグループと飲みに行って帰ってくると、へんなしゃべりになってるけど、ナニちゃんってこんなふう?
と。
いやナニの場合はもっとおんなの甘えが入る。
じゃあ、ナニナニちゃんは?
ナニナニの場合はもっとやわらかい、悪口いうときはスゴイけど、そういうんじゃない。
夫が、それは神奈川県の特定の地域のしゃべりだ、と、自分の弟一家の住んでいた相鉄線の地名をいう。
「もしかするとそれうちの姪じゃなかった?」
相鉄から横浜で東急線に乗り換えてきたにちがいない、と。
その喋り方は川崎ではない、蒲田でもない、横浜だ、と。
ふたりは、渋谷でどっと降りるひとたちに混ざって降りていった。
ほんとうは目でおいかけたいところだったが、鋭い目でにらみ返されそうだからやめておいた。
くさくさした空気で包まれたふたり。
怒りのような。
街は、晴れ着に真っ白なふわふわのショールを肩にかけた女性たちや、おしゃれなカップル・・おしゃれなジーンズに黒い革ジャンとか、上等な紺色のコートに、斜めがけのバッグ、平和な成人式の休日なのだ。