「私の木」と呼ぶ木は、おそらく榎だろう、枝がつやつやしてなめらかで、腰よりやや高い位置にすっぽりとお尻が入るようなお誂え向きのくぼみがある。
この前土手に出たとき、私の木の周囲にオレンジ色の侵入禁止のひもが張られていて、いやな予感がした。
元旦の凧揚げに土手に出て、私の木を探すが、多摩川辺りの風景が変わってしまっている。
台風はこなかったのに、川に向かって立つ草木が荒れている。
川の水は浅く、ところどころに川底をむき出しになって、もうちょっとで神奈川県側に渡れそうである。
あれ、どこ?
犬と家族をベンチに残して、足早に榎を探す。
似たような木があるが、座りやすいくぼみがない。
かなり上流に歩いて、やっとみつけた。
オレンジのテープがゆるんだところから中に入って、元旦だから公園管理人もいないだろう。
登りたいが、この靴とこの防寒用のながいコートでよじ登れるだうか?
ぐるりと木の周りをみて、最初に足をかけられそうなとこがないか、探すが、この厚底の靴ではどうもむりそう。
夫が少し引き上げてくれたら簡単に登れるだろうが、いまごろ新しい凧に挑戦しているだろう。
どこからともなくえいやっと、大ぶりの枝に手をかけて全身を引き上げてめざすくぼみによじ登った。
遠くに富士山の山肌がきらきらと雪の輝きを見せている。
身体を榎の枝ぶりに預けきっている。