夕べ、とろとろうとうとから眠りへ深化しようとした矢先、ひろこさんを思い出した。
ああ、ひろこさんというひとがいて、助けられたんだった。
そのときは助けられたという意識も大してなかったが。
彼女がいまどこでどうしているか、もう探そうと思っても探せないことに気づいて愕然とする。
過呼吸が起こりそうになって飛び起きて、オピウムを飲む。
正月あけから、この症状がぶりかえしているのはなぜだろう?
昔、勤めていた役所で最初に配属された部署にいた男性の席にしょっちゅう来ていたひろこさん。
ひろこさんは、そのひとに気があったのだ。
彼女は太っていて、おしゃべりなひとだった。
男性のほうもガタイのいいひとだった。
ひろこさんが来ると、うつむいて仕事をしながらも、彼女の話しを聞いてわらっていた。
当時まだあった産業会館という大きな会場に、町会のひとたちを呼んで説明会をひらく仕事のリハーサルでマイクを持って、
《いらっしゃいませーいらっしゃいませー、はい何番さん出番ですよー》と上手に呼び込みの真似をして笑わせた。
説明会がはじまると緊張して小さな声になったが。
私は、役所に入った当時から、なにかと取り沙汰され、なにかと噂のネタにされた。
ひろこさんは、最初の職場を異動になったあとも、わざわざ訪ねて来て、励ましてくれた。
気にすることないよ、みんなひがみそねみだから、と力をこめて言った。
ひろこさんには、お母さんがなく、おとうさんと弟の面倒を見ていたのではなかったか。
そんな境遇もかさなって、共感を示してくれたのかもしれない。
なぜか、初対面から反感をみなぎらせるひともあるが、逆もあって、女性の場合も男性の場合もある。
「あんた不器用ないきかたしてるね」などと、公務員でありながら、ギャンブラーで有名なおじさんから近づいてこられたこともある。
当時の役所というのは、中卒から大卒まで、交通局の合理化で役所に流れてきた現業職のおじさんたち、いろいろなひとがいた。
君の名前を出してしらーとさせてやるんだ、とおかしそうに報告してくれるひともあり、頼んだ覚えはないがありがたいことである。
ひろこさんが、だれかと結婚し、妊婦であったことを覚えている。
適齢期で、まわりが結婚、妊娠、ふたりめ、という話題ほど逃げ出したくなるものはなく、彼女から赤ん坊の写真を見せられたとき、素直におめでとうと言えなかった。
その後、出先機関へ異動となってからは、一度も会わず、その三年後に私は退職してしまった。
ひろこさん、のぶえちゃん、ホンダくん、君たちがいてくれたことをもっと大切にすればよかったよ。
ありがとう!