Gについて

夏休み明けのできごと。

日野の現場へ行くために高幡不動駅でモノレールに乗り換えるのだが、

水道で手を洗い、水滴のついていない向かいの鏡だけのカウンターで顔をチェックしていると、鏡の奥で特有の歩き方、やや左右にかたかた傾けながら、速いスピードで横切る真っ黒なもの・Gだ!

ぞおっと肩がふるえる。

ああああぁ、と足がもつれる。

すいっと排水溝へ消えた。

 

私の人生で目の敵にして徹底的に叩き殺してきたG。

今思えば、有毒の害虫駆除を引越しのたびに塗布して、はたして虫にとって毒なのか私にとって毒なのかわからないハケのついた液体の駆除剤を台所の棚の隅から隅まで、流しの下に頭をつっこんで塗りたくった。

 

写真屋を営んでいた実家には暗室があり、暗室はGの溜まり場でありGの天国であった。

暗室を建て増ししたおかげで台所は日が当たらなくなり、朝起きるとまず電気をつけた。

電気がついた途端、かさかさかさとGが逃げ去る音が聞こえた。

そして水切りのかごにGのふんがぽろぽろたまっていた。

 

このところ、あまり目にしなくなった。

猫がいるからかもしれない。

日本の夏があまりに暑すぎるからかもしれない。

現実に目に触れなくても、夢に出てくる。

今年は一度、子の部屋に出没した。

「こないで!」と叫ばれたので「G?」と瞬間的にわかった。

そして手間取ったが、なんとか掃除機で駆除してくれた。

 

二ヶ月の休みが終わって、秋の活動開始のその日、前日とはうってかわった猛暑であった。

天気予報は熱中症に警笛をならしていた。

子どもたちも疲れ切っていたし、私はGをひきずっていたのか力がでない。

 

Gという恐怖。

真っ黒で速くて手に負えない。

自分の生涯でどれだけ殺してきただろう。

目にすれば脳が虫と察知する前に反射的にきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁと叫ぶ。

近所じゅう響き渡る叫びである。

この声を出すと、全身ぐったりしてしまう。

 

高幡不動のトイレはもう使わない。

いつまでもGがきえてくれない。

蒸し暑い湿気た駅のトイレに出没したG。

そもそも仕事場に着く前から疲労していた。

そしてたった一匹のGといういきものにノックアウトされた。

思い切って自分がGになってみる。

習ったばかりの催眠の方法だ。

あまりうまくいかない。

これまでやっつけてきたGを供養してみるのかどうだろう?

 

f:id:mazu-jirushii:20221115095627j:image