神之木公園にはクマンバチが出没するらしく、《近づかないでください》と書いた紙が木のふもとに貼ってある。
紙にはA4くらいのサイズで上を向いたタテ長のハチの絵が描かれている。
9月にこの公園に入ったら急に裸足になりたくなって靴と靴下を脱ごうか、と切株を探したが、ハチがこわくてやめた。
「大口」という、これまで降りたことのない駅から歩いて15分ほどにある公園、というよりまるで森にみえる、うずたかい緑である。
土曜日は雨の翌日で、まだ木々が湿気っている。
手すりのついたジグザグのステップを登っていくと、ギターを弾きながら歌っているひとがいる。
サラリーマン風のやせた男性が、クマンバチ注意のポスターの張っている木と木のあいだでギターを弾いているのだ。
11月はクマンバチが一番神経質になる要注意時期ではなかったか。
スーツを着て、帽子をかぶっている。
あまえたような、すねたような声。
どうやらユーミンの曲らしい。
ちょっと考えてああ、ユーミンか、と気づく。
見ていいのかよくないのか、その男性は、酔ったように半目で首を振っている。
そうかぁ、はいはい、というように彼の歌に耳半分傾けながら登っていく、なかなか心臓にきつい急勾配である。
やっと上について公園を出るころ、歌は「さっちゃん」に変わっている。