富良野線に乗り込む。
一輌の車窓からみえる景色は、カナダの作家アリソン・マンロー描くヒューロン群の牧草地を連想させる。
美瑛で降り立ってみると、急に寒い。
前日まで、北海道にいる、と思えないあたたかさだった。
駅前の観光案内でもらった地図を片手に歩くことに。
洋品店で防寒用のスパッツを買うことにした。
洋品店のおばさん(おばあさん)は、駅前側と通り側と両方に入り口のある広い店内の奥にある座敷に座って背中を丸め、箱をかかえてなにか一所懸命の様子だったが、入っていくと顔をあげてスパッツコーナーに案内してくれる。
肌着やパジャマ、エプロン、普段着、長靴まで置いてある。
カーテンで仕切られた試着コーナーで着替えさせてもらっていると、おばさんと夫が話しているのが聞こえる。
どこからですか?
東京からです。
着替えて出ていくと、娘が東京にいるんだけど、と嬉しそうに話し、ちっとも帰ってこない、と笑う。
美瑛の駅前周辺には、ひろい道路と官庁の建物があるだけ、のように見え、
これじゃあ、帰りたい、という里心の生まれる余地がないよな、と思う。
ひとがいない。
美瑛の街が一望できるという公営の建物の屋上へエレベーターで上がる。
冷たい密室のエレベーター内で気分がわるくなる。
屋上に着くと、見渡せる景色はえらくあっさりしたものである。
春になれば、花に溢れた別世界になるのか。
閑散とした美瑛駅からタクシーで旭川空港へ向かう。
着いたときは、なんにも見当たらない空港だったが、発着コーナーはおしゃれなフード・コートやおみやげもので賑やか。
子どもたちが遊んでいるのはアイヌの動物たちのコーナー。
帰りの飛行は乱暴運転(?)で気分が悪くなりそうだった。
羽田から乗ったタクシーの運転手さんから、どこから帰ってきたのか、と言われて北海道です、と答えると
自分が北海道出身であること、
青森の大学で学生生活を過ごし、青物弁をマスターしたこと、
上京して就職した一流企業で、青森への出向を命じられ、青森弁を発揮して営業所から支店へ格上げし東京本社へ栄転した自慢話し、
聞き取りやすい話し方はさすが営業職である。
しかし、一流企業からなぜ運転手に転じたのか、その点は語らない。
私はこらえていたが、家に着くなりトイレに駆け込んで吐いた。
北海道出身の運転者さんの話しにいちいちあいづちを打つものひどく大義だった。
夫は、また使ってくれ、と言われたそうである。