お菓子

 長く東京に住んでいても、知らなかった「浮間」という地にある保育園に呼ばれて行ったのは、雪が降った日の翌日のことで、知らない駅に下りたって雪が残る道を地図を片手に歩いた。

大きな池のある公園が駅前に見える。

保育園の方向には浄水所があり、古紙のリサイクル工場があり、春の陽ざしに舞っているきらきらした物質は一体なんだろう、と思ったものだ。

運河のような川は、塀に目隠しされていてみえない。

 

私の活動を気に入ってくれた園長先生が、年度途中に予算を計上してまで自分の園に呼んでくれた。

並外れた行動力のおかげで、私の活動領域が広がった。

園に行くと、私のためにお菓子が用意されていて、活動が終わったあと、コーヒーを飲みながら子どもたちの話をした。

いつも同じデニッシュで、園長先生はそのデニッシュがお気に入りなのだった。

それまで、こういう扱われ方をしたことがない。

外部講師は、外からやってきて、帰っていく存在で、子どもたちの話しを先生とするなどということはない。

児童の名前すら個人情報ということで教えたがらない園もある。

活動のあと、園長と主任と話し合うと、高揚感につつまれた。

 次年度もと言われていたが、突然園長がやめることになったので、浮間へ行くことはなくなった。

法人とぶつかった、とのことだ。

しばらく学校へ行き、保育の勉強をしなおす、という話しであった。

私よりは若いが、それなりの年齢なので、あまり期待していなかったが、数年後に新園を立ち上げたので来て欲しい、と電話がかかってきた。

このひとは、ここにも一年しか園長を勤めなかった。

どうもサイズが合わない、というか、彼女の思考や行動パターンがなかなか現場に馴染まないらしい。

 

あとにも先にも、仕事に行くと私のためにお菓子が用意されていて、それが嬉しい、という経験は彼女との関係以外にはなく、いまでもそのときもらったお菓子に出会うとなんとなく嬉しくなる。

 

 

 

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