美容師事情

美容院との因縁。

この因果のはじまりは見当がついている。

なが〜い遍歴のあと、ようやくこれだ!という美容師と知り合って、以来30年。

 

この美容師が、雇われの身から自分の店を構えるまでのブランクのあいだは、知り合いから美容師を紹介してもらったが。

 

 実は開店準備中も、このひとが一部の常連客には、プライベートで髪を切っていたことを知っていた。

私だって当時でさえ20年の付き合いである。

開店の通知が来て、電話をしたらつながった。

特別な機会があるので開店より数日早いが、カットをお願いできないだろうか、と頼むとすげなく断られた。

常連客の話しを聞いていなければ、さほど恥ずかしい気持ちにはならなかっただろう。

この常連客は、夫の古い知り合いで、カタカナ商売のいやなやつである。

なるほどね、とひがんだ。

 

知り合いから紹介された美容師は、なかなかの腕前ではあるが、カットだけなのにえらく時間がかかる。

話しに熱中するとハサミを持つ手を止めて、鏡のなかの私の目を見つめながら話すのである。

しばらくはおしゃべりおばさんのところへ通ったのだが、すげない美容師のセンスにはかなわない。

耳もとでさくさく切っていくハサミのなめらかさにはかなわない。

このひとは私のことが苦手なんだろうな、と思う。

よくあることだが・・。

夫が言うには、お前は誤解される、なんでかしらないけど、と。

私はひとがどう思おうが関係ない、という人間ではない。

どう思われているか、すごく気にするタチなのだ。

だから、私のときはほとんどしゃべらない美容師から好かれていないらしいことが寂しくもある。

聞き耳をたてると、他の客にはやわらかく談笑していたりする。

 

何度か、扱われかたに傷ついたことがあった。

ずいぶんむっつりしてるな、と思っていたら仕上げる直前になって前髪を突然ギザッと切られた。

え?と思う間もなく。

前髪切ったほうがいいですね、なんでいままで気がつかなったんだろう、と不自然に笑った。

心臓がドキドキした。

お金を払ってモノを買う、お金を受け取ってモノを売るという商売とはちがい、美容師と客は医者と患者と似ている。

こちらは、まな板の上の鯉。

ケープを被せられて、身動きとれずにいる。

不快感というより、ふざけ半分に扱われたようで傷ついた。

そして、何度も考えてクレームの電話をかけた。

一応気に入らないぞ、という意思表明はしなくては、自分のこころのために。

たいへんな努力をして電話をしたら、向こうはあっさりお気に入らなければ、一週間以内でしたら無料でやり直ししますよ、とあたりまえのように言った。

 

それから数年間行かなかった。

今度はべつな知り合いのツテで男性美容師のもとへ行ってみた。

このひとは、おばさんに輪をかけたおしゃべりで、しかも時々、ちらっとからむようなことを言うので、2年半ほどでいやになった。

また戻った。

それからは気をつけていた。

またもめると面倒だぞ、となるべく下手にでないようにしよう、ご機嫌を取らないように、私は客なんだぞ、と思うようにしていた。

 

前回、新しく入った屈強な男性にシャンプーを担当されてしまった。

常々、力を入れないでくれ、と言っている。

マッサージなどは「大丈夫です」とお断りしている。

この30年。

もう少し、力を弱めていただいていいですか?

と頼んでも、聞こうとしない。

無骨もの。

翌朝首が固まって動かなくなった。

 

それから数か月がたち、予約の電話をして、そうだ、シャンプーのことを頼んでおこう、と彼女に電話を代わってもらった。

こないだのシャンプーで首が動かなくなっちゃって、別の方にお願いすることできますか?

と言ったのだ。

すると「体調のわるいときは、やめたほうがいいですよ!」と言われた。

「体調じゃあないですよ、力が強かったんだです。」と言うと。

「いや、それはわからない」

「いつもの女性にシャンプーお願いできますか?」と聞くと、

「うーん、考えてみますけど・・。」

 

咄嗟にん?、この反応は想定外だった。

そこがそもそも齟齬なのかもしれないが、このような場合(ふつう)はそれは申し訳ありませんでした、次回からいつもの女性にしますね、とか言ってくれるものと信じていたのだ!

いまや経営者になった彼女は、私のことばに過剰反応したのだ。

そういうことなのだ。

もう行くまい。

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