初めてアルジェの海を見たとき、強烈な感情が湧き起こってきて、
海がまぶしくてアラブ人を撃ち殺してしまった、という「異邦人」のストーリーがいかに人種差別的な世界でのことなのか、と。
アルジェリア人とアルジェの街や海に行くと、外国人としてのバリアーが薄くなり、地肌でこの国を感じた。
フランス語の家庭教師ネシマの家族に海に連れて行ってもらった。
ネシマの兄の運転するボロ車で街を走り、海ではかれらの用意した水を飲んだ。
アルジェリアの側に立ったことないひとにはわからないかもしれない、サハラ砂漠を背にした景色は、ヨーロッパ大陸から見る景色とは異うのだ。
黒っぽい砂、衛生的でなビーチ、地中海がアルジェリアの側から眺めるとどんな景色なのか。
「異邦人」が違う視点でみえてくる。
「異邦人」の主人公は、アルジェリアに住むフランス人男性、かれはピエ・ノワールと言われるアルジェリア育ちのフランス人という設定で、たとえばトルシェ監督もピエ・ノワールである。
アルジェリアに住むフランス人が、地中海をあたかもフランス側から眺めたように脚色して書いた「異邦人」。
美しくねじれた、
ゆるぎのない文学世界。
どこから入っても均質の文字世界。
カミュが天才なのは間違いない。
「異邦人」がすぐれた文学であることは間違いがない。
コロニアル社会の奥に踏み込むことは、この小説の本分ではない、ともいえる。
ここに書かれたのは人間の本質に迫るものであって植民地の政治ではない、といえるかも。
池上の喫茶店でしかたなく広げた朝日新聞に掲載されていたこの本を図書館にリクエストすると、だいぶ待ちされて届いた。
そうそう、これが言いたかった!
とちょっと夢中になった。
ところが、読んでいるうちに抽象的なくり返しが多くて疲れた。
期限前に読み切ることができずに返却。
東日本大震災から、この日で8年9ヶ月26日19時間27分47秒。これはご近所の普通の家の外にあるアートである。
現代アートの問題提起。
時間はあれから、1秒も止まることなく進み、取り返しのつかないことを、しかし取り返そうと歩むひとたちの時間を刻む。
こころがしんとなる。