ロバート・ウェストールという作家

中毒のようにYouTubeの朗読を聴いていると、

「海辺の王国」というタイトルが画面に浮かんできて、なにも期待しないで聴いていると、めんどくさいように感じた展開がだんだんと面白くなる。

自宅をドイツに爆撃されて、両親と妹を失った少年が犬と一緒に海辺を旅するロード・ストーリー。

第二次世界大戦時の英国である。

おとなに助けられたり、だまされたりしながら、最後は農園を経営するおじいさんに拾われて、ようやく犬とともに安住の地を見つけたかに思われたが、実は両親も妹も戦火を逃れて生存していた。

死んだはずの家族との再会と暮らしが、空白の期間にすっかり成長してしまった少年にとって奇妙な居心地のわるいものになっている。

ラストは農園のおじいさんが、大きくなったら来るといい、と犬と去っていく。

へぇぇぇぇ、と感心した。

子ども向けの本なのに、

このリアリティー

家族という神話のあっけない崩壊。

家族を失ってひとりぼっちになってしまった少年は、自力で旅するなかで解放されていく。

泣いたり、怯えたりしながら、逃げたり、助けを求めたりしながら。

 

つづけて短編集を借り「弟の戦争」「かかし」を読み、

いまは「禁じられた約束」・・原題THE PROMIS・・を読んでいる。

ヤング・アダルトのための作品である。

思春期の少年が、父親の会社の経営者の娘の話し相手になってやってほしい、と夕食に呼ばれる。

この子は赤毛の美しい女の子で、少年も前から気になっていたのだ。

近所の男子生徒からからかいの的になることを恐れた少年はぜったい行かない!と抵抗するのだが、父親と母親の頼みで行くことになる。

労働者階級の自分たちの家とは違うすばらしい庭園のある家で、最初女の子の部屋で過ごしてから、夕食をご馳走になる。

この少年はなかなか気の利いた会話をして、家族をよろこばせ、またきてほしいと言われ、そのことは、少年の父親と母親にとって喜ばしいことなのだった。

この女の子は実は病気であって、もうあまり長く生きられないことをおとなたちは知っていた。

ある日、女の子の求めに応じて、外へ連れ出して、海岸を岬まで散歩するのだが、帰ってみると女の子の父親と母親が騒いでいる。

娘はサナトリウムから帰ってきたばかりなのだ、娘を殺す気か、と怒鳴られてすごすごと家に帰る。

父さんがクビになるかもしれない、と息子は心配する。

しかし父親は息子の話しを整理し、クビにはならないと思うが(父親は熱心な組合の活動家でもあった)、もしそうなったら他の仕事を探すから気にするな、わるいのはお前でなく、事情をなにも話さない両親のほうだ、と、

「この話はもうなし!」と切り上げる。

ところが母親は、お前は父さんの人生も女の子の人生もめちゃくちゃにしたのよ、と責める。

女の子の母親と婦人会で会って、冷たくされたら、

「私はどうすればいいの」

と言うと。

そんなことはお前が考えろ、と父親。

このあたりの展開もありそうで、おかしい。

 

ウェストールの作品にお化けが登場するのは、後書きで読んだだけの情報だが、彼が物語を作るきったけになったひとり息子がオートバイの事故で死んでしまい、その後、妻も自死している経歴のせいだろうか。

作品のなかで、生と生のむこうにある死の世界をいったりきたりしている。

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