カーテンが開いて、舞台が始まった。
雪深い森のなか。
茶色い着ぐるみを着たリス二匹と、尾の短いうさぎ一匹、木の上から美しい黒い羽をもつカラス、そして狼。
このうさぎはかの有名なおみじかうさぎである。
楽譜でしか知らなかったおみじかうさぎの歌を初めて聴くことになる。
狼は大きく、毛皮もふさふさでリアルであるが、なにせとんまなのでいつもカラスにだまされ続ける。
一部だけで1時間半、15分の休憩を挟んでさらに1時間半の長丁場である。
夫は、用事が入ったので途中抜けで退座。
私はこの休憩中にぜひトイレに行かなくてはならない。
終わったと同時にちゃっと立ち上がって小走りに走る。
このような場所のトイレ休憩は長〜い行列がつきものである。
そうと知っていながらトイレに割くスペースがやさしくない。
案の定、私の後ろから走ってくるおばさん二名はねぇねぇ外のトイレ行こうか?と劇場の外のトイレへと出ていった。
私の前にトイレに入った小学生がパンツをずり上げながら個室から出てくる、小学校のお便所風景。
さっと用を足して出ると、短い時間のあいだに列は通路まであふれている。
やれやれ、席に戻ると私のすぐ後ろの席の小さな女の子が泣いている。
みたくない!みたくない!
と叫んでいる。
帰りたい、やだよぉ。
と泣いている。
振り返ると、狼がこわくて泣いているんです、と優しそうなお母さんが言う。
なんとかなだめて後半の舞台まで居たい、という気持ちはわかるが、この強烈な泣きを静めることはできそうにない。
あれはなかにニンゲンが入ってるの!
とお兄ちゃんが冷静に言って聞かせるが、効果なし。
どうも母親が真剣に取り合ってくれなさそうだ、と不安になったのだろう、耳をつんざくような悲鳴をあげ始めたので、私は左耳を押さえた。
左耳が聴覚過敏なのだ。
妹と母親が退場し、お兄ちゃんはひとりで観劇。
意地悪な継母と継姉に、いためつけられるみなしご、という設定。
継母と継姉の嘘、不正、陰謀に翻弄され森で凍え死にしそうなところを、十二月じゅうにつきの妖精に助けられる、とざっくりいえばそういうストーリー。
みなしごの後をつけて森に迷い込んだ継母と継姉に、木の上のリスが雪の高まりをなげつけるシーンでは小さな笑い声が起こる。
小さいながら毒のある笑いである。
継母と継姉が雪だらけになって困っていると、小さな拍手まで起こる。
娘と顔を見合わせて笑う。
さて、ハッピー・エンドで幕が閉まり、外へ出ようとすると用を終えた夫がまた会場に戻って来ている。
少し前に着いたのだが、なかに入れてもらえなかったそうだ。
ロビーには、機嫌を直した妹とすらっとしたお母さんが立っている。
よかったですよ、後半も狼さんいっぱい出てきたから、と言う。
どうもすみません、と頭を下げられてしまう。
《森は生きている》
とても楽しい芝居だった。
林光の曲が見事だし、内容もへんな教養主義にならずきれいな仕上がりだった。
なみしご役の若い女優さんがどこも嫌味がなくてすてきだった。
女王役も、そして最後は犬にさせられ継母と継姉も、それぞれ若々しいハリのある声と演技で森世界を拡張させていた。
夜は、テレビを観ながらクリスマス・チキンを食べた。
ママタルト残念!がんばれひまん!