ある朝、どうにも歯が噛み合わない。
お茶を飲めばなおるだろう、朝ごはんたべれば落ち着くだろう、と思いながら、改善せず、夕方整体に行った。
これでよくなるだろう、と思っていたが、
帰りの私鉄を待っていたら気分がわるくなった。
心配になるが、たった10分くらいのものだ、もし吐きそうになったら降りればいい。
蒸し暑いホームでちょっとくらくらした。
歯茎が痛んで、居ても立ってもいられない。
熱っぽい。
漢方の先生に電話して、夫が出先の帰りに取ってきてくれることになった。
これまで感じたことのない痛みにうろたえる。
その夜、どちらかといえばいつもは無頓着系の夫が、痛い痛い痛い、とうめく私の枕元に付いていてくれる。
夫を見て、よっぽどなんだな、とむしろ心配になる。
ひさしぶりの漢方を煎じてもらって、その夜二回服用。
痛みはおさまらない、ロキソニンを飲むことを何回か考える。
翌朝は、自分でおかゆを作って梅干しで食べる。
おいしいと感じるので、大丈夫そう、と思う。
その日一日、ソファに横になって「京都殺人案内」を観て過ごした。
あるときから藤田まことが好きになった。
それまでどちらかといえば苦手な俳優さんへの気持ちが急に変わったのは、このひととの継母との経緯をウィキで読んでから。
父親の再婚相手をきらって避けていた藤田まことが、兄の戦死を機に継母を大切にするようになった、という件にじんと来てしまった。
敵対していたひとへの想いを変えること、
拒絶を解いて、受け入れる、と気持ちを決めること、
そういうことができるひとは、えらいと思う。
私と継母の関係は悲惨であった。
遺言書をひらいて、私とは親子ではなく関係もない、という文言を実際に目にするまで、ハッピーエンドの夢を捨てていなかった。
自分が可哀想というより、そこまで夢を捨てなかったしぶとさを大したものだ、と思う。
だが、作り物ではない、まま子とまま親の話しには心がひかれる
馬ヅラの藤田まとことチビの白木みのるとの「てなもんや三度笠」に感じた安っぽさは、どこからきた感情か。
関西文化圏に対して東京人が持つへんな優越意識?
ふたりの芸人さんの持つうらさびしい雰囲気?
大枚はたいて、歌舞伎座へ行き、大物歌舞伎役者松本何某の長時間の芝居をがまんした。
途中休憩で長蛇のトイレに並んでいると、うしろの奥さまたちの会話が耳に入ってくる。
なんといっても、役者の一番は藤田まことよね。うちの子も言うのよ、藤田まことはサイコーだって、必殺仕置人の主水のサイコー
四日間、ソファに横になって「京都殺人案内」で痛みを紛らわせたおかげで、噛み合わせがもどってくる
ありがとう!
藤田まことさん。