スキー

昨年、思い切って日帰りスキーへ二回行った。

スキーは何度も中断しているので、万年初心者のまま、ハの字に足をひらいて滑るためひざに負担かかり、左ひざを傷める。

それでも、なお行く。

 

二十代後半に役所のスキー合宿へ行って、初めてスキーを体験して夢中になった。

春に突入していたが、スキー部の最後の合宿に申し込みをして、いっきに上達してやろう、と目論んでいたが、どたんばで熱を出した。

高熱で、壁にたてかけたもらいもののスキーを眺めていた。

熱が下がったら行こうと思っていたのだが、

「いい加減にしなさい、ひとの迷惑も考えないで」と当時仲良くしていた年上の友人から激しく怒られた。

なぜかわからないのだが、ときどき叱責されることがあった。

それだけが理由ではなかったが、そのときとうとう合宿を断念した。

 

次のシーズンを待ち望んでいたが、秋に結婚することになり引っ越しもして、ひとりでスキー合宿へ行くという立場でもなくなった。

 

次に行ったのは、子どもができてからのことで、子どもと一緒にスキースクールへ入ったりしたのだが、理屈っぽい先生の経営する合宿で、同じことばかりさせられて嫌気がさし、ひざをこわして中断した。

それで行かなくなってあっという間に六十も半ばすぎ、

数年前にいとこがやってきて、死ぬ前にやりたい百のことを書き出せ、という。

いくら考えても二十くらいしか書けなかったが、そのなかに「スキー」があった。

次に生まれてくるときには、スキーのジャンプがやりたい、と話すと、五センチでも十センチでもいいから今生で飛んでおけば、と言わてその気になった。

 

二泊三日で越後湯沢へ行ってきた。

行く途中でたいへんナーバスになったのは、ひとりの女性に対するうらみ。

行き手を阻むがのごとく、

忘れていたうらみがいきいきと胸によみがえってきた。

問題はひざだけではなかった。

ある時期、居候をしていた女性と彼女の仲間たちと一緒にスキーへ行ったことがあったのだ。

リフトに乗って山の上まで行き、降りてくるのは初心者の自分には難しい、というより怖い。

怖いというと、ぜったい大丈夫、かんたん、かんたん、と大きな女の人が一歩もゆずらない。

私はふたりの女性に取り囲まれて、こうしろああしろ、こうしないのがだめ、いやそうじゃない、と言われて転んだ。

平地ではいくらいばっていても、すてんすてん転んではばかのようなものである。

私は、リフトの係員にむりやり頼んで、降ろしてもらった。

こんな気持ちで、これ以上このひとたちにかかったらケガすることになる、と思った。

一泊か二泊か、そのあいだじゅう、リフトを止めて、反対に乗る人間は初めて、とさんざん言われた。

イジメ、しかも弱みに対してのイジメ、逃げたものへのイジメ。

そのことを彼女たちは覚えていないだろう。

越後湯沢で過ごす時間、彼女たちが私のなかもやもやもやもやしている。

そして六十八歳になって、まだ初心者。

 

最終日、ひとりでリフトに乗っていると、急斜面をパラレルでかっこよく滑るひとをよだれを垂らしてながめている。

あーあ、カッコいいな〜。

 

でも、でも、スキーはだめかもしれないけど

ピアノは上級だからね、などとホンキで言い訳している私。

一体だれにむかって言ってんの、自分に? 彼女に?

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